記録 No.1

[　日記帳には肉球がぺたぺた並んでいる。翻訳するとこうだ　]

ワシは狼である。
ある男の紹介で暇つぶしに島に来てみたのじゃ。
所がなんだ、へんちくりんな女め。
卑怯な罠でワシを捕まえ、さらに妙な魔術で首輪なんぞつけおった。
高貴なる狼になんたる仕打ち。
しかも無理に取ろうとすると爆発するとか脅してきよったわ。

こんなやすっぽーい首輪なんぞひとひね……

[　文字はここらへんでのたくっている。
 　その後怒りの肉球スタンプが散乱　]

ぬぉぉぉぉぉおおお！！！！
首が絞まる！　殺す気か！！！！！

くそう、今に見ておれ…こんな首輪なんぞ
奴の隙を見て外して寝首を掻いてくれるわ。

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ぱたり、日記を閉じる。
書きなぐったら少しは気が紛れたが
勝手に締まる首輪に怒りが収まらず
道端の小石を蹴っては八つ当たり。

ころころころ…、転がる小石、
視線の先、地に落ちているのは
――桜の花びら？
ふと顔を上げれば懐かしい匂い。

……鈴？

[　ちりりん　]

[　腰元に下げた鈴が鳴った気がした　]

いや、この匂いは常春の――そう、桜を背負ったあの男の

「…おった」

嫌でも目立つその風貌、
幾年過ぎても変わらず其処に在る姿。

「なんぞあやつまぁだ生きておったか」

呟き笑う。けらけらけら、牙の覗く口の端が上がる。
いつだったかあの男が言っていた。
桜は全てに繋がる。
縁か必然か、そんな事は如何でも良い。
――面白い。長く退屈していたところだ。

腕を振るう。
銀の毛並みが流れて、長く伸びた黒い爪は鈍く光る。

さぁ、ひとつ再会の景気づけじゃ。
ワシとお前の挨拶はやはりこうでなくてはの！！

地を蹴り、左腕を振り上げれば爪は空気を裂いて――――